近年の生命科学の進展により、生体内で起こる分子レベルの反応の詳細や、それに関わる分子種についての膨大な知識が明らかになってきた。一方で、それら分子が総体として織りなす「生きている状態」とは、そもそもどういう状態なのか?そして、そのような状態を特徴付ける法則や原理は何か?このような基本的な問題について、我々人類はまだほとんど理解できていない。この問いは生物学のみに閉じた課題ではなく、現象の記述と理解に必要な数理科学の発展や、新たな実験・計測技術の開発を必須とする。この意味で現代生命科学は科学諸分野のフロンティアを押し広げるともに、これらを再統合する現場ともなっている。
当センターは、東京大学総合文化研究科内の研究センターとして設置された。総合文化研究科では、大学院重点化を契機として、数理から物質・生物さらには人間に及ぶ広い分野を細分化せず、むしろ統合的研究の展開に適した体制へと整備してきた。幅広い分野を統合するという当研究科の研究・教育理念に加え、複雑系研究の世界的拠点でもあったが、1999年度からCOE「複雑系としての生命システムの解析」が採択されたのを踏まえ、2005年度から本センターを設置した。
生命システムのもつ恒常性、後天的学習性、進化的柔軟性等を、生命システムを構成する要素間の相互作用のはたらきとして全体的に捉えるという複雑系の考えかたをもとにして、生物に共通する普遍的な法則とメカニズムの解明を目指す。そのために、数理科学、理論物理、分子生物学、生物物理学、進化生物学、有機化学、ナノバイオテクノロジー、細胞イメージングなど、広範な分野の研究者が共同で研究・開発に取り組み、生命をシステムとして理解する研究を進めている。
本研究科は複雑系研究の拠点として世界から注目されていたが、大学院・総合文化研究科広域科学専攻で、平成12年からCOE「複雑系としての生命システムの解析」、平成15年から21世紀COE「融合科学創成ステーション」が採択されたのを踏まえ、2005年度から本センターを設置した。物理に基づく生命システムの普遍的理論、化学を駆使した人工細胞創出、生物物理的測定を駆使したシステム生物学が共同して、生命をシステムとして理解する研究を進めている。学内諸研究室とだけでなく米サンタフェ研究所、独ルール大学等海外10 拠点と提携や共同研究を進め、国際会議の主宰、基本となる著書の出版なども行って、「複雑系生命研究」を推進している。2012 年度から16年度にはセンターの活動を母体として、「複雑生命システム動態研究教育拠点」が文科省により設立された。
更に2016年度には大きな変革が行われた。本センターと理学系の生物普遍性機構が共同して、生物普遍性連携研究機構が発足し、これに伴い、本センターも組織替えを行った。生命現象の普遍的論理を探るべく、東京大学を挙げてのプロジェクトの双翼の一つを担い、さらなる展開を行おうとしている。