[質問2]
研究生活
研究者になりたいと決めたところまでは特に誰からの影響もなかったように思いますが、肝心の一体何を研究するのかというところに関しては、特に深く関係する複数名の方々から多大な影響を受けました。
学部生のときは、理学部物理学科にいて宇宙論の研究をしたいと無邪気に考えていたのですが、院試に失敗したことをきっかけに考えを見直し、その当時、ちょうど東大に研究室を持つことになった岡田真人先生の研究室に入りました。物理学科にいたときは全く「脳」という対象に興味を持つことがなかったのですが、岡田先生が取り組んでおられた、統計力学的な方法論を用いて神経細胞集団が形成する複雑なネットワークを解析できるというところに面白さを感じたのが、今私が取り組んでいる「理論神経科学」という分野に飛び込んだきっかけです。
そこから、現在主要なテーマとして取り組んでいる「意識」という問題に取り組み始めたのは、学位を取ってポスドクとなってからのことです。このきっかけは、Giulio Tononiが作った「統合情報理論」という理論に興味を持ったからです。統合情報理論は意識を「情報」という観点から数理的に定量化しようとするチャレンジングな理論です。この理論が本当に正しいのかどうかという問題はさておき、意識という難問へのアプローチ方法に対して魅力を感じました。その当時、今でも共同研究を行っている土谷尚嗣さんと出会ったことも非常に影響が大きく、土谷さんがTononi教授に私を紹介してくれたこともあり、Tononi研究室に2年間の研究留学をすることになりました。そこで、Tononi教授と共に統合情報理論のversion 3.0 (IIT 3.0)という論文を書きました。Tononi研究室での2年間は、Tononi教授と共に意識の理論という研究に没頭する2年間で、その時間の中で色々なアイディアを得ました。今取り組んでいる研究は、この当時に考えていたことに端を発したものが多いような気がします。
意識の数理的な理論を作るという普通ではなかなかできない経験をしたTononi研での2年間を経た後、今、私自身が特に力を入れて行っているのは、そのような数理的な理論をどうやって実験的に検証すれば良いのかというフレームワークを作ることです。意識と一口にいっても、意識レベルの問題(e.g., 睡眠や麻酔中で意識が失われるのはなぜか?)、意識の質の問題(e.g., わたしが感じている「赤」はあなたが感じている「赤」と同じか?)と大きく分けると2つの問題があります。これらの問題に対して、数理的な理論を構築するだけではなく、それを実験的に検証して、理論から非自明な予測を導けるようになることが目標になります。まだまだ道半ばで、ある程度満足がいく結果が出るのはどれくらい先になるのか分かりませんが、一歩一歩着実に進んでいる感覚はあり、一つ一つの研究を楽しんでやっています。