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SPECIAL CONTENTS 01研究者探訪01

石原 秀至
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東京大学大学院総合文化研究科准教授 SHUJI
ISHIHARA
石原 秀至

2005年 東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程 修了
2019年より現職
研究内容
細胞・細胞集団の運動や力学の理論研究
[質問1]

なぜ研究者になったのか

 小学生の頃は地球科学(NHKの「地球大紀行」を見たのが科学の目覚め)、中高は物理学に興味を持ち、小さい頃から研究者になりたいとは思っていました。田舎育ちでまだインターネットもない時代、周りにそういう人もおらず、研究者になるかどうか具体的なビジョンがあったわけではなく、そのときはただの憧れでした。大学学部では物理学科に入り、初めはありがちですが素粒子物理に興味がありましたが、講義で統計力学を面白く感じ、またカオスや計算論の話を本で読んで知り、そういう方向に興味を持ちました。同時に、高校まで興味のなかった生物学の講義を大学で受け、物理現象として考えると色々腑に落ちないところもあって(なんでそんな現象があるのか、物理法則が与えられたときに予測できるのか)、生命現象というものをどう理解すれば良いのだろうか、と考えるようになっていきました。今でも腑に落ちてはおらず、これが今でも研究の原動力といえばそうです。

 ポスドクでは、岡崎の基礎生物学研究室にいた望月敦史先生の理論生物学研究室に所属しました。一年しかいなかったのですが、当時は理論と実験のコミュニティがまだ遠いなかで、周りが生物学研究ばかりという環境でいろんな刺激を受けました。この一年は自分にとっては印象に残っています。
[質問2]

研究生活

 大学院では金子邦彦先生(複雑系)の研究室に所属し、初めは力学系の研究をしていました。実際には、うまくいかないことが多く、しょっちゅうテーマを変えていました。他の研究室との合同セミナー(池上高志先生や、当時駒場にいらした佐々真一先生、途中からは福島孝治先生も)や、生物学を含む多様な分野のセミナーを聞く機会が多い研究室で、また、学生同士で議論(というおしゃべり)ばかりしていた気がします。博士課程でやっていた、どちらかというと抽象的なネットワークの話が、たまたま「体節形成に使えるんじゃない」という話になり、ショウジョウバエの体節形成ネッ トワークを調べ始めました。これが生物の問題に取り組んだ始めての研究でした。この系を調べながら遺伝発生学の勉強をしたりと泥縄で進めていましたが、後から見ると理論的にも取り扱いやすい系で、この系から入ったのはラッキーでした。

 教員になってからは、さまざまな仕事でなかなか研究時間が確保できないのが現実ですが、セミナーや論文紹介など、また日々の会話でラボメンバーや共同研究者と話しながら面白いことを探している日々です。思いついたことを頭で考える妄想状態(←面白いけど大体間違っている)が多くなった気がします。この妄想を育てるのには、他の人ともっと話すことが大事なんですよね。
石原 秀至先生
[質問3]

UBIの研究への関わり

 大学院や助教を駒場で過ごしたので(他大学に転出した時期もあるので切れ切れではあるのですが)関わりは古いです。同じ部局(総合文化研究科)の澤井哲先生のグループとは、助教時代から、細胞が示す遊走運動や走化性について共同研究をしてきました。また、理学部の杉村薫先生のグループとは組織発生のメカニクスについて共同研究を続けてきました(杉村研がたまたま東大に移ってきたのでUBI内連携になっていますが、それ以前から共同研究をしていました)。このテーマについては、パリのP. Marcq博士、F. Graner博士、Y. Bellaïche博士らのグループや、チューリッヒのC. Aegerter博士らのグループとも共同研究をしてきました。
石原 秀至先生
[質問4]

学生(学部生)に向けてメッセージ

 一般的なメッセージは特段持っていないので、自分の思っていることというか、希望を書きます。現代の生物学は総合科学で、また、自分の学生の頃と比べても技術の進歩は凄まじいですが、その背景には様々なアイデアがあり、独自のアプローチができるところに面白みを感じています。UBIだけを見ても、高い技術とそれ以上に面白いアイデアを持った研究室が多くあり、聞いているだけでワクワクします(もちろんアイデアだけではなくて、それを形にする試行錯誤も重要です)。私自身は力学系や統計力学の理論がバックグラウンドで、できることは限られますが、それでもたまに「ああ、これは誰も見ていなかったものだ」ということに行き当たることがあり、えてしてシンプルな設定やアイデアに基づいています。一方で、上にも書いたような「じゃあ生命現象って何︖」というのは未だに腑に落ちていません。自分の言葉で言える日が来るのだろうか。そういうことを一緒に(じゃなくてもいいけど)考えてくれる学生がいるといいな、と思っています。