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SPECIAL CONTENTS 01研究者探訪02

小田 有沙
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東京大学大学院総合文化研究科 助教 ARISA
ODA
小田 有沙

2015年 東京大学大学院理学系研究科博士課程 修了
2019年より現職
研究内容
分子生物学・ゲノム生物学
[質問1]

なぜ研究者になったのか

 実はあまり明確に研究者になろうと志したきっかけがあるわけではありません。研究をやっていると、地道に下積みを重ねていくうちに、ある時突然ふっと新たな道が開ける瞬間、のようなものが多かれ少なかれあるかと思うのですが、そんな小さな打開の瞬間を何度か経験して、その時の喜びを糧に今日まで続けてきた感じです。これまでいつも周囲の研究者の方々や家族などからも支援、応援していただいているので研究を続けられてきました。

 学部生の時に分子生物学を勉強して、生命現象のメカニズムをうまく説明できることに感動した覚えがあります。そこで、「生物の多様性がどの様に生み出されるのか」ということに漠然と興味を持って、大学院の進学先の研究室を探しました。ただ、実際にテーマを与えられて研究してみると、学部の時にお勉強した分子生物学だけで全てが説明できるほど単純じゃないとわかりました。

 研究を始めたのはちょうど次世代シーケンサーというゲノム配列を効率よく解析する機械が流行り始めた頃でもあり、生物情報学をはじめいろいろな分野の研究者と出会い、教えてもらったり一緒に研究をしたりするうちに、少しずつ興味が広がってきました。

 複雑系生命システム研究センターの先生方にも、システム生物学、非線形数理科学の世界を教えられ、その奥深さに惹かれるとともに、生物の多様性・複雑さを説明するには多面的な切り口が必要だと実感しました。単一の生命現象を切り出して上手に説明するだけでなく、現象の裏にある本質まで俯瞰的に捉える必要があると自戒しています。
[質問2]

研究生活

 研究では、大学院の頃から基本的に酵母を研究しています。人類にとって酵母はお酒やパンを作るのに使ってきた馴染み深い微生物です。

 低コストで増殖させやすいので、歴史的に分子生物学や遺伝学の研究でよく使われています。なので、私も学生の頃は酵母を、「細胞のモデル」、すなわち、実験材料として使って遺伝子発現制御の研究していました。でも最近ではむしろ「酵母の生態そのもの」に興味を持って研究しています。具体的には、栄養環境が変化したときに、酵母がどう変化するかに興味を持って、酵母の培養実験や塩基配列情報などのデータ解析をやります。特に、栄養が枯渇した時の酵母の増殖の様子を観察したり、細胞がどのような物質を分泌するかを調べています。一方で、遺伝子組換えの技術開発や工業利用されている物質生産酵母の組換え株のゲノムの特徴を解析したりもしています。

 学生時代と今とでは、同じ研究室にいるのですが研究テーマも生活もだいぶ違います。 院生の頃は、生活の中心が研究でした。ラボの教授である太田邦史先生は自主性を重んじていて、自由に研究できるよう支援していただいたのには感謝しております。気の向くままに興味のある実験に打ち込んだり、研究に行き詰まったらラボメンバーや他の研究室の先生であっても相談させてもらったり。他方で、勉強会に参加して研究の方向性を模索したり、少し離れた分野の学会に参加したりもしていました。

 今は、小さい子供が二人いて、仕事と子育てを両立するために、効率と持続可能性を重視して研究生活をデザインしています。学生の頃と違って研究そのものに割ける時間自体はだいぶ少ないわけですが、その分、視野も広くなったように感じます。仕事として研究するようになってからは、何か一つのことに打ち込む、というよりは同時期に複数のテーマを並行して進めていることが多いです。
小田 有沙
[質問3]

UBIの研究への関わり

 特にCOEのときから金子邦彦先生、畠山哲央先生に会って始めた研究テーマは、今でもつづいています。酵母が糖分の少ない環境で増殖する時に、培地中に毒を出すのですが、それが、畠山さんとは、酵母が、グルコース飢餓状態で毒を出し、かつその毒に対して耐性を獲得することで、自分は死なずに周囲の微生物を同種他種問わず殺すという戦略を示すという現象を見つけました。この現象には「新参者殺し」(Latecomer killing)と名づけ、毒を新規に特定し、適応機構を調べています。実験家と理論家が一緒に仕事をしたことで、また、UBIメンバーとディスカッションしたことで、一人では得られない視点からのアドバイスなどを受け、研究に深みが増したと思います。

 また、COEでは非線形数理を研究されていた平田祥人先生、合原一幸先生に出会って、一緒に、複雑系の幾何を応用して染色体の立体構造を計算したのは面白かったです。当初、別の研究計画の相談をしていたのですが、ふと雑談で話した実験手法が、先生の理論ととても相性が良かったのです。 学部生の頃、大学数学は結構難しい…とむしろちょっと避けがちだったのですが、平田先生と一緒に仕事をすることで、数学を通して見える世界を体験させてもらい、その奥深さに感動しました。
小田 有沙
[質問4]

学生(学部生)に向けてメッセージ

 研究をする、と言っても、テーマからその進め方までいろいろな形があると思うので、自分に合うスタイルを追求できると良いかと思います。単一分野の常識は、他の分野では必ずしも常識とは限らないことは多々あります。見方や方法を少し変えるだけで研究が一気に進むこともあるかと思います。研究を通して、自分が「当たり前だ」と思っていた世界は、実はぜんぜん当たり前などではないと気付かされ、見える世界が広がるのは研究の醍醐味かと思います。